
1953年生。日本人で初めてF1にフル参戦したレーシングドライバー。現在、有限会社中嶋企画の代表取締役として、レーシングチームの運営、若手の育成などに携わっている。また、フォーミュラ・ニッポン、全日本GT選手権、全日本F3選手権のレースカテゴリー、チーム監督として参戦中。
日本モータースポーツ史にに名を刻んできた中嶋悟さんは、現在、チーム監督として日本国内のサーキットを飛び回る多忙な日々を送っている。住まいは愛知県。東京にある会社<中嶋企画>へ行くときはもちろん、500~600キロ程度の距離は自らクルマを運転して移動するという。
「4~5時間の移動は苦にならないんですよ。当然モチベーションは違うけれど、レースのときもプライベートのときもクルマを運転する楽しさは僕にとって同じ。だから、今でもフッと思い立ってドライブに出掛けたりします。特に決めているわけではありませんが、昔から走り慣れている近所のワインディングを、週一回のペースで走っていますね。」
「走り慣れたワインディング」とは、実は中嶋さんがレーシングドライバーとしてデビューする以前から親しんできたところ。何十年も同じ場所を走れば飽きそうなものだが、中嶋さんは「クルマの運転そのものが楽しいのだ。」と言う。
「もともとクルマという乗り物の機能が好きなんですよ。それに近所のワインディングでは、たまたま見つけたお店でイワナを食べたり、新たに何かを発見する楽しみもある。東京に向かうときは、見るたびに変わる富士山の景観も楽しみのひとつになってますね。あ、雪が被ったなぁとかね。」
走る喜び、移動先での喜び、移ろう景観の喜び、etc。中嶋さんにとってクルマの楽しみは、ドライブという行為にあるということだ。そして、レースに携わってきた人物らしからぬ言葉が続く。
「実はクルマの見た目は、それほどこだわらないんです。いまレジェンドに乗っているんですが、外観を左右するものに関して言えば、タイヤとホイール以外は交換しないんです。この考えはずっと同じ。走る行為そのものが遊びだと捉えているし、見た目はそのままが一番イイと思っているんですよ。」
意外な言葉だが、走行性能をいい加減に捉えているという意味ではない。その証拠に、クルマ社会やモータースポーツの在り方についてこう語る。
「イギリスには一時停止の標識がほとんどないんですよ。譲り合いの精神が徹底しているから必要ないんだと思います。走行車線、追い越し車線の使い分けもしっかりしています。ルールやマナーの歴史に違いがあるからなんでしょうね。僕が関わってきたモータースポーツについて言えば、燃費向上の技術やエンジンオイルによる安全性の確保などが、クルマ作りに役立っています。こうした要素が整っていけば、クルマはもっと楽しくもっと快適に走れる乗り物になっていくと思います。」
ひと月の移動時間が20日前後に達する中嶋さんは、靴や衣服の着替えを積み込み、クルマを自分の部屋のように使っている。そして、モータースポーツ界の重鎮ではなく、クルマを愛するひとりのドライバーとして今なお純粋に走る楽しさを継続している。
(取材:2007年)